前に、注射が怖い、という話を書いたが、私にはもう一つ怖いものがある。
注射と比べると、だいぶランクは落ちるのだが…。
実は水中が怖い。
泳ぎは、そこそこ得意な方で、たしか中学時代、クラス対抗の水泳大会で一等をとった記憶がある(数少ない栄光…)。
しかし、そのこととは別に、水に対する恐怖心が、かなり強く、洗顔中に息を止める程度のことでも息苦しさを覚えるほどだ。
一度、スキューバダイビングの一日体験というのをしたことがある。あれは本当に怖かった。まったく初めての人向けの初歩的な潜水なので、何の困難もない簡単なタスクのはずなのに、無造作に「はい、それでは潜りますよ~」と、いきなり海中に連れて行かれたときは、軽いパニックに陥った。「このパイプを口にくわえて、口呼吸をしてください」という簡単な説明だけで、いきなり潜らされたのだ。「えっ、ちょっと待ってください。どういういうこと?」と問うヒマもなかった。水深10数メートルもあるようなところで、口呼吸に失敗し、ガボリと水を飲み込んでしまったらどうなるのか。咳き込んでも周りは全部水だ。これは死ぬのではないかと思った。
なにしろ体験するのは素人たちばかりだ。水中で水を飲み込む事故なんて、けっこうあるんじゃないかと思うのだが、あの無造作加減から推測するに、めったにないか、あっても、なんとかなる、ということなのだろうか。
それにしても、あれはホントに怖かったので、インストラクターが、事前にちょっとなだめるみたいなこと(注射をするとき「ちょっとチクッとしますけど大丈夫ですからね」と言うような)も全く言わず、無造作に潜っていったのが、ちょっと信じられないぐらいだった。みんな、あれが平気なのか?
この、水に対する恐怖は、なんというか、死の恐怖と直結している感じがする。注射に対する恐怖については、そのような哲学的(?)な香りはない。
それは、世界のキワに連れていかれるような恐怖だ。世界が無限に圧縮して潰れていく感覚というか、なんともいいようのない独自の趣がある。ここには何らかの真実が含まれているような感じがする。
自分の中には、この水の恐怖に対する、忌避する気持ちと、惹きつけられる気持ちの両者が共存している。
ときどき「味わって」みたくなるのである。