そういえば、そろそろノーベル文学賞の季節なのでは?と思い、なんとなくネットをチェックしてみたところ、ブックメーカーのオッズは今年も村上春樹がトップ人気ということらしい。
ずいぶん以前から最有力視されつつ選に洩れ続けていたので、そろそろ見放されているのかと思ったら、相変わらず予想値は高いままのようだ。
思えば村上春樹は、ずいぶん以前からノーベル文学賞最有力候補と噂されてきた。
しかし、選考経過は半世紀公開されないことになっているので、そもそもホントに最有力なのかどうかもわからない。
とはいえ、もし噂どおり毎年、検討候補に挙がり続けているのだとしたら、よほど抵抗している人でもいるのだろうか。「俺の目の黒いうちは絶対に村上春樹には受賞させん!」とか言って頑張っている人がいるのか。
などと思っていた矢先、2018年、#MeToo運動がきっかけとなり、スウェーデン・アカデミーがスキャンダルにまみれ、ノーベル文学賞の選考が見送られるという事件が起こった。
この騒動を機に、アカデミー会員が、かなり入れ替わったようだが、これにより村上春樹抵抗勢力も密かに一掃されたのではないか、もう来年あたりあっさり受賞するのではないか、と当時、想像してみたりもした。
しかし、そんなこともないまま、かれこれ数年が経過している。
どうもそんな単純なことではなかったようだ。
たぶん毎年、シーズンが近づくたびにお祭り騒ぎを演じるマスコミのありさまを「やれやれ」とか言って眺めているのだろう。
しかし「やれやれ」というポーズを取りつつも、内心はどうなのか。
正味のところ、欲しいのか、欲しくないのか。
これについては本人でない限り、わかりようもなかったわけだが、先述のノーベル文学賞見送り騒ぎによって、その真相が図らずも明るみになることになった。
この年、ノーベル文学賞が発表されないという異例の事態を受けて、市民有志による代替賞「ニュー・アカデミー賞」なるものが発表される運びになったのである。
このとき候補に挙げられた四人の文学者の中に村上春樹の名があった。
村上春樹は、ただちに候補を辞退する声明を出した。
理由は「メディアからの注目を避けて執筆活動に専念したいから」というものだった。
かなり苦しい。
真の理由は想像できる。こんなものを取ってしまったら、本家本元のノーベル賞の方が取れなくなってしまうではないか。
他の候補者三名は、ノーベル文学賞の可能性からは遠い人たちだ(あくまで世間の噂レベルでだが…)。
対して村上春樹は毎年ブックメーカーのトップに君臨する最有力候補。他の三人とは訳が違うのだ。
あいつらは、もともとノーベル賞の目はないのだから「ニュー・アカデミー賞」とかいうやつで手を打つのも悪い話じゃないだろう。しかしこっちは失うものが大きすぎる!
これはもう災難としか言いようがないではないか。なんでこんなリストに自分を入れたんだよ。少しは配慮ってものはないのかよ。
…というようなことを村上春樹が思っていたかどうかは知らないが、一連の候補辞退の動きを見ると、そう思っていたように映ってしまうのも無理はない。