マルコによる新明解独語辞典

WEB連載「マンガのスコア」とマンガ「ゴミクズマン」の作者のブログです。

わからなかったこと その2

(承前)「わからなかったこと」

 

もう一つ、わからないままになっていることがある。

「友人たちとお茶をする」などという経験はほとんどしたことがない私だが、一度だけ大学のゼミ生で集まってお茶をしたことがあった。

ある帰国子女の人が、英語をマスターするまでの苦労話をしていた。

最初のうちは怖いと思っても、とにかく現地の人たちの輪に飛び込んでいくことが大事だと言う。それが出来ないといつまで経っても喋れない、外国に長いこと滞在しているのに、全然喋れない人ってよくいるんだよね、と言った。

それを聞いた私は、

「私はそのタイプかも知れませんね」と言った。

すると別の女性が、キッとこちらを向いて

「あの、ちょっと失礼なことを言っていいですか」と言う。

私は何を言われるのかとビクビクしながらも「どうぞ」と答えた。

すると脇から

「いや、失礼なことは言っちゃイカンだろう」と茶化す者がいた。

「あっ、そうですね。じゃあ、やめときます」

私は焦った。言われなかったら言われなかったで、逆に気になる。

「え、別に気にしませんけど何ですか。」

「いえ、もういいです」

「あの…、ホントに気にしないんで」

何度水を向けても、答えようとしなかった。結局彼女は、私に何を言おうとしていたのだろう。

 

その後卒業してから、彼女から毎年、年賀状のはがきが届いた。年賀状をやりとりする友人などいない私にとって、ほとんど唯一の年賀状だった。

ところが、その年賀状が、ある年、ふいと来なくなった。

数ヶ月後に彼女の実父という方からのはがきが届いた。娘の突然の死を告げていた。死因は書かれていなかった。

これで、彼女が私に告げようとしていた言葉の謎は、永遠に閉ざされることになった。

 

「全力で空気を読む」につづく。