マルコによる新明解独語辞典

WEB連載「マンガのスコア」とマンガ「ゴミクズマン」の作者のブログです。

就職活動

(承前)「おひとりさま」

 

アルバイトすら怖くてなかなかできなかった私に、就職活動などできるわけがなかった。

周りの人たちがリクルートスーツを着て各社を駆けずり回っている頃、自分は資料請求のハガキすら一枚も出していなかった。

 

大学四年の春も終わる頃、同級生の一人から

「マジで!? マジでホントに一枚も出してないの?」と驚かれ、

「えっ、だいたいどれぐらい出してるものなの」と聞いたら、

「何百通出したか覚えてないよ。ていうか、そういう段階はもう終わってるよ」と言われた。

あわてた私は、ようやく重い腰を上げ、4通出した。

 

それから、おずおずと就職活動らしきものを始めた。まあ、あまり思い出したくもないような悲惨なものだった。

あるとき集団面接があったのだが、他の受験生が、皆、立派な答弁をしているのに、自分だけがあまりにお粗末な内容だったので、ひどく落ち込んだ。

「しかし客観的に見れば、案外、自分が思っているほどヒドくはなかったかも」などと無理やり自分を慰めつつ帰ろうとしていると、ふと、後ろから肩をたたく者がいた。先ほど一緒に面接を受けていた学生の一人だった。

「いやあ、君のさっきの答弁すごかったよね~。俺も人のこと言えないけど、ちょっと慰められたわ」と言う。

あっ、やっぱりヒドかったんだ、と思った。

「ちょっと、そのへんでお茶しない」と言う。

そこで彼の後をついて行ってお茶を飲んだ。

私は就職活動のやり方をよくわかっておらず、全くの手探りだったので、この機をとらえて、彼にいろいろ質問した。彼も私の無知ぶりに驚きあきれながらも、非常に懇切丁寧にアドバイスをしてくれた。それは、私にとって初めて聞く有益な情報ばかりで、「へえー」と、心底感心しながら聞き入った。様々な裏技や効果的な方法まで、包み隠さず開示してくれた彼には、感謝の言葉しかない。

聞くと、彼もまだ一社も採用が決まっていないという。

今思えば、彼もそうとう心が傷ついていたのかもしれない。自分より、もっと出来の悪そうなやつを見つけて心の慰安を得たかったのだろう。

私の話を聞いて、彼も少しは慰められただろうか。

 

「社会に出る」につづく。